それにはあまり意味がない

自由に生きて、強く死ぬ。

かくしなさいよみっともない。


正月恒例となっているフジのかくし芸大会も、いつの頃からかウリナリ的な「頑張ってる姿に感動してごらんよ」番組になっており、まったくもって芸を隠すどころの騒ぎではなくなってしまっている。ただ、こんな事は僕が物心付く頃から言われている事なんだろうし、これはもうそういうものとして受け止めるほかない。思えばモーニング娘。というのもそういった意味では「かくし芸」的なアイドルであった。見ず知らずのメンバーが集まり、時にぶつかり合いながら、あまり得意でない(人もいる)歌やダンスを必死に練習する。そんな努力が実って見事結果を出した彼女らは、歓喜の涙を一筋流す。そんな姿を目の当たりにした僕らは「ええやん、感動やん」状態に陥ってしまうのである。いわば結果ではなく過程を楽しんでいるといえるのかもしれない。


しかしながら、現在のモーニング娘。はそんな構造なんてものをあっさりと覆してしまう。年明け一発目のハロモニにおいてやはり彼女らもかくし芸を披露していたのだが、その立ち振る舞いはまさにパンク。ファッション、形式としてのパンクなどではない、そこにはニュー・ウェーブでありポスト・パンクムーヴメントの潮流すら感じさせる姿があった。


第一演目 「強い前歯」/ 辻希美石川梨華


辻希美のかくし芸の演題は「強い前歯」である。何それ。普通の感覚を持った方ならばそう思うであろう。まして2007年の年明けなのだからなおさらだ。しかも彼女は本家のかくし芸大会にも出場しており、そこでは見事な集団演舞を披露している。だとすれば、この「強い前歯」なる演目にも期待がかかるところだが、その内容は「前歯が強いのを証明する」というもの。そして、用意されたのは大根が一本のみ。つまりは大根を丸かじりする、だけ。バカにしてるのか、と素人の方は思ったかもしれない。いやバカにしてると思うよ。だって番組側はもちろん、隣に座ってる石川さんすら何の疑問もなくこの事態を受け入れちゃってるんだもん。しかもあろう事か、先に大根の試しかじりをする始末。22歳! 22歳だよあんた!! 大の大人がなにやってるんだろう、とか思わなかったか。思わなかったよね。いい子だから。4期の絆は永遠だもんね。


もちろん大根を噛み切れなかった石川さんを見て、辻さんは「だって大根なんてさ…」と呟きながらどんどん噛み千切っていった。「大根なんて噛むじゃん」という名言を残して。それを受けた石川さんはすかさず「老後! のの、老後が辛いよ!!」と、同期の辻さんを心配するコメント。視点がまったくもってずれてるけど、4期の絆は永遠だもんね。しょうがないよね。


このエキセントリックな芸を終えた辻さんは、感想として「2007年もこんな感じで自分らしくいきたいなと思います」とおっしゃっていた。大根を噛む事に自分らしさを見出す辻さん。それはこの疲れきった消費社会に一石を投じるものだったのかもしれません。だって考えても見てください、アイドルという華やかな仕事をする傍ら、新鮮な大根を丸かじりするだなんて、そんな半芸半農だなんてアイドルいるわけな、いたぁぁぁぁぁ。


石川さんの返しのコメントが「ゴーイングマイウェイでね」とただのオウム返しだったのはご愛嬌。


第二演目 「きき肉」/ 藤本美貴田中れいな


藤本さんが目隠しをして肉の種類を当てるという、そんなかくし芸。一体誰が得をするというのだろう。混沌だ。混沌が場を支配している。そもそもこの時の衣装が振袖なのが余計に拍車をかけていて、もはやそういうアートなんじゃないかとすら思わない。画ヅラとして藤本さんが目隠ししてるその姿そのものが何だか間抜けでおもしろかった。藤本さんのきき肉能力には疑う余地もなく、あっさりと全問正解してしまったのだが、ここではむしろ田中さんのアシスタント能力の高さが目を引いた。


きき肉という、ともすれば退屈な時間が生まれやすい演目に的確なコメントやリアクション、合いの手を入れ続け、肉の食べ方にも細かいアドバイスを与えるその様はまさに「きき肉アシスタント」というかくし芸であった。この能力がこのまま一生隠し続けられるだろうという意味でも、田中さんには満点をあげたい。何の。


最終演目 「すごい手品」/ 亀井絵里道重さゆみ


最後にようやくかくし芸らしい演目なのだが、「すごい」手品て。タイトルを考えた人はもう一度、公共の電波を使って情報を発信する事の意味を考え直して欲しいなと思う。これは亀井さんが「自分自身タネのわからない手品をやる」という、なんとも亀井さんらしいものである。亀井さんだからこそテレビで流していいレベルになるんであって、そこらのアイドルにはちょっとマネできないだろう。主に自尊心とかの問題で。それにしても道重さんのタレント力は日々格段に進化してるね。隣にいるのが道重さんだからこそ、この数分のVTRが成立していたといっても過言ではない。さとう珠緒への道を確実に邁進してるよね。ただ、そのタレント力と対比するかのように浮かび上がってくるのが、亀井さんのアホさ加減だ。この亀井さんを見た100人が100人とも、この子の将来を心配するだろう。そのくらいのアホは見つけようと思って見つかるものではない。辻さんとも里田さんとも違う、アホの第三勢力なのである。そして、それは道重さんが手に入れようと思っても手に入れられないものでもある。ある種のイノセンスともいうべき感覚。道重さんは密かに亀井さんにコンプレックスを持っているに違いない。ともかく、相互に補完しあう関係性に相性の良さを見た。


以上が、モーニング娘。のかくし芸である。そこには何の衒いもない、素のモーニング娘。の姿があった。それこそが、本来あるべきかくし芸の本質である。この企画を立案し、また実際に放映したスタッフの勇気に感謝。そして十分に反省していただきたい。いや、めちゃおもしろかったからいいんだけどね。