それにはあまり意味がない

自由に生きて、強く死ぬ。

HKTBINGO! #1 HKT48お笑いオーディション前編

久々のBINGOシリーズとなるHKT48。今回のテーマは、ガチな「お笑い」。一流の構成作家さんがメンバーのお笑いセンスを見極めるオーディションの審査員、ネタ作りのブレインとなり、年末のお笑い賞レース決勝進出を目標に活動するバラエティ番組。日本テレビ系列ということで、おそらく女芸人No.1決定戦の「THE W」とのタイアップ企画なんだろうな、程度の認識で初回を観てました。が、初回を観終え、これはぜひバラエティ番組好きなあなたや、お笑い番組好きなあなたに観てもらうべき番組だということで感想を書き殴っている次第です。

 

番組の構造として複数の視点・切り口があり、内容に深みを感じる作りになっています。アイドルがお笑いの賞レースを目指す青春ドラマとして。一流の構成作家がお笑いの素人を指導するリアリティショーとして。バラエティ番組やタレントを解体するメタ視点のバラエティとして。どの視点からみても丁寧な作りで、非常に濃密な30分間でした。

青春ドラマとしてのHKTBINGO!

基本的にアイドルのドキュメンタリーには「涙」が付きもの。AKBグループのドキュメンタリー映画や総選挙しかり、いわゆる「残酷ショー」となりがちです。今回も「アイドルがお笑い賞レース決勝を目指す」ドキュメンタリーですから、メンバーに緊迫感を与えて、追い込み泣かせるような構成にもできたでしょう。しかし、そうなると確実に「笑えなくなる」こともあってか、番組制作者の視点に温かみを感じる構成となっています。

 

番組は、HKT48メンバーのお笑いセンスを見極めるオーディションから始まります。課題は、「オーディションの部屋に入室し、席に着くまでに1ボケ」するというもの。それぞれメンバーがボケる様子と、審査員のコメントが交互に流れ、それをスタジオでメンバーが見ているという構図。基本的に審査員のコメントは、宮脇咲良さんのようキャリアや人気のあるメンバーには改善点を伝える内容、デビュー数か月のドラフト3期生のような新人にはネタをやりきる姿勢や雰囲気を褒める内容となっていて、スベッてもいいから思い切ってチャレンジする雰囲気を意図的に作っているように感じました。また、高評価、改善点を伝えるコメントも非常に個別具体的で、メンバーの成長に直結する内容であるとともに、視聴者側もメンバーが成長できているかどうかチェックしやすくなっています。

 

「アイドルの爽やかな成長ストーリー」を追う王道のドキュメンタリーって最近珍しいように感じるので、今後の展開が非常に楽しみです。

 

リアリティショー・メタバラエティとしてのHKTBINGO!

メンバーの審査員、ネタ作りの協力者として参加されている構成作家さんがかなり豪華です。

このメンバーによって、お笑いを基礎の観点で批評を行う番組ってかなり斬新じゃないでしょうか。過去の名作バラエティ番組や、M-1キングオブコントなどの賞レースの影響で、お笑い芸人さんのボケ・ツッコミやネタのパターン、構成など、いわゆる「お笑いの文法」に関してはある程度視聴者側も慣れています。その慣れ(理解)を前提として現代のバラエティ番組は作られているため、番組の構造は複雑化し、そのクオリティはかなり進化しています。

 

その点、HKTメンバーは「お笑い」についてほぼ素人のため、普段完成されたバラエティ番組を見慣れた視聴者にとって、「お笑いの文法」を知らない素人の出演者を見ることは非常に新鮮に感じるでしょう。また、バラエティ番組において「お笑いの文法」が言語化され、解説されることはほとんどありません。視聴者がプロの解説に触れることができるのは、M-1などの審査員コメントくらいです。HKTBINGOは、お笑い素人のメンバーに対して作家陣が批評を行うという形式を取ることで、基礎的な「お笑いの文法」を言語化していくという、メタ的なバラエティになる可能性を感じています。

 

特に、サンドウィッチマンさんのショートコントを映像で見た上で、同じネタを即興で演じるという課題は非常に興味深いものでした。

 

サンドウィッチマン 「ラーメン」

 

伊達:いやぁ富子、お腹空いたね

富澤:うん

伊達:どうする何食べる

富澤:私みきおと一緒でいいよ

伊達:一緒でいいのか

富澤:うん

伊達:この店はラーメンが美味いんだ

富澤:そうなんだ

伊達:ラーメンでいいか

富澤:うん

伊達:すいません! ラーメン2つ

富澤:私もそれで!

伊達:4つ来ちゃうぜ

 

メンバーの実演による成功・失敗パターンを見ることで、このネタのポイントが明確に浮かび上がっていました。セリフのニュアンスや間の取り方が一つズレるだけでも笑いに繋がらないのはもちろんのこと、視聴者(=メンバー)は、実はネタの「何が」面白いのかを正確に理解できていないということも表れていたように感じます。また、このパートで作家陣が評価していたメンバーについても、間の取り方が上手かった坂口理子さんに加えて、ラーメンを「うどん」に置き換えて「そのままやらなかった」小田さん・運上さんを評価するなど、どんなタレントが製作者側に求められるのかが垣間見え、これもメタ的です。また、この課題自体が「お笑い」を教える上で非常に端的で優れた教材であり、お笑いの素人を鍛えていくというリアリティショーとしての強度を上げる役割を果たしています。

 

バラエティ番組でありつつ、収録やOAを通じてメンバーのお笑いの技術を成長させる構成になっているHKTBINGO。それは同時に、我々視聴者に対してバラエティ番組やタレント(お笑い芸人)の評価の仕方を示唆するような、メタ的な構造になっているように感じます。指原莉乃さんという、日本のバラエティ番組においてトップクラスの若手女性タレントがHKT48のメンバーでありMCであるという点も、番組の強度を上げる大きなポイントとなっています。2回目以降が非常に楽しみな番組です。

 

(2018.07.16放送 HKTBINGO! #1 HKT48お笑いオーディション前編)