それにはあまり意味がない

自由に生きて、強く死ぬ。

「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」 初日観劇感想。


何故だかわかりませんが、今日はふと気づけばチケットを握りしめ新宿のコマ劇場の前に一人立ち尽くし、しばしの間呆けておりました。思い返すに夕方頃、モーニング娘。リボンの騎士ミュージカルのチケットを安価で見つけた頃から意識が飛んでいってしまったのでしょう。そんなこんなでコマ劇場初潜入。内部は思ったよりもこじんまりとして、どこからでも舞台が見やすい作りになっていた。私の席はこれまた中央やや後方で、前は通路というお芝居を見るには最適な場所。入り口には演出の木村氏がいて、客をお出迎えしておりました。そうこうしているといざ開演。


以下感想。まず休憩抜いた公演時間が二時間半という長丁場だった事に驚き。あのスケジュールの中よくぞここまでのものに仕上げたなと。これから一ヶ月、しかも昼夜公演まである日程の中で台本を削らなかった事。一ヶ月公演の舞台初日の段階であの完成度だったら文句なしかなと。


そういうわけでまず全体的にはかなり高評価な公演でした。辻さんの回のみならず、何回か見てみたいと思わされましたし。成功の要因として、まず脚本をちゃんと各役者に当て書きしたであろう事が挙げられます。「当て書き」というのは、役者の個性やキャラクターに合わせて脚本を書いていく事、もしくは直すことなんですけども。もちろん「リボンの騎士」という原作があるので完全な当て書きにはなり得ないんですが、各キャラともメンバーの個性を活かしたキャラ設定になっていて、違和感なく物語に入っていけたと思います。中でも久住さんの役設定が絶妙の一言。劇の序盤に娘。グッツや劇場内売店の宣伝を歌うって言う、まさにレインボーピンク的な芝居をぶち壊す一歩手前の場面があるんですけども。でもそこでアイドルがミュージカルをするっていう構造自体を相対化できていて、以降はかえってアイドルである事を忘れられるというか没入できるようになるというかね。亀井さん新垣さんペアと田中さん道重さんペアで分けて、そのペア毎に適材適所に使ってくるのを見て、演出木村さんはかなりハロプロを理解して(しようと努力して)このミュージカルに臨んで来てるんだなぁと一人嬉しくなってました。亀垣ペアには腹式の舞台声を出させて、田重ペアにはアイドル声のままやらせてるってとこにしっかりとした意図を感じたんで。先のレインボーピンクにしろ、こういうとこのセンスがある限りハロプロは面白い存在であり続けるんだろうなぁ。


何はともあれ、主役の高橋さんの頑張りなくては始まらないこのお芝居。歌に演技にかなり高レベルのモノを求められていたと思いますが、これからもっとよくなりそうな予感を感じさせる程、今日良かったです。歌は多分体調もあるでしょうからベストはまだ先になりそうですが、演技はかなりのものでしたよ。男と女との間で揺れる感情を身体的に表現できていましたし。少なくとも、ここは「男」ここは「女」っていう演出の意図はちゃんと伝わってきてましたから。


吉澤さんは見事に男役をこなしていましたね。吉澤さんは本質的には優しい人なので、単純にフランツ王子(高橋さんの想い人)を任せるよりも、子を愛するが余りに悪の道に走ると言う役どころの方が適役だったと思います。小川さん久住さん吉澤さんのコントは恐らくどの公演でもスベらないと思うんで、これから見に行く人は楽しみにしてたらいいと思います。


そして藤本さん。間違いなく今日1の出来。すっげぇぇかっこよかった。藤本さんが出てくると場が締まるんだよね。歌もめちゃ声量出てたし。吉澤さんとの歌は多分この芝居のハイライトだと思います。いやー藤本さんの演技見に行くだけでもいいからミュージカル参加した方がいいんじゃないかってくらい良かったよ。ぶらぼー。


石川梨華石川梨華。むやみに二回書いては見たものの、実際開演までは不安だったですよ。だって、ねぇ。でもでもでも。実際問題、演技はほぼ問題ないっていうか良い部類になってましたよ。緊張ほぐれてきたらもっとよくなるだろう箇所があっただけに、余計にそう感じました。今日がベストじゃないだろうから逆に安心感があります。歌もね、ちゃんと石川さんのために作られた歌だから音程とかは大丈夫。いつものオモシロボイスは封印し、かなりクール石川を体現していたと思います。中でも二部での独唱は心に響くものがありました。脚本も歌も幼稚なアイドル向けという作り方じゃなくて、真に娘。に合ったものを作ろうとしてるから、本当に無理がないんですよ。


最後に、プログラムの中の脚本・演出木村さんのお言葉。本当に名文だと思うので、引用します。



「アイドル」という前提から、逃げずに立ち向かう事。逃げ方はわかっていました。アイドルの周りを芸達者な年長者たちで囲むのです。


中略


しかしそれでは、アイドルはなんのため生きているか分かりません。アイドルとはなにか。人間です。成長します。助けられてばかりいたら、いつかきっと腐ってしまいます。ハロー! プロジェクトは違う。必ず自分の足で立ち、おのおの歩いていけるはずです。そのためには脚本も演出も、真剣勝負でのぞむべきだと考えました。


中略


よほどの例外を除き、生涯アイドルを続けるわけにはゆきません。いつかその境遇から巣立ち、次の人生を歩んでゆく。そのとき確かな手本となる存在(マルシアさんと箙さんの事です)を、この公演にも設けたかったのです。


原作のリボンの騎士の素晴らしさと今回のスタッフの本気さも相まって、愛に溢れた見ごたえのある公演に仕上がっていたと思います。是非とも現場に足をお運びくださいませ。