それにはあまり意味がない

自由に生きて、強く死ぬ。

椎名林檎(生)林檎博`08 最終日

ふと気づけば、さいたまスーパーアリーナの前でチケットを握り締めて佇む私がいました。今日は敬愛する椎名林檎さんのライブだったのですが、朝から仕事があった上に、チケットすら手に入っていない状況だったんです。こりゃさすがにライブ鑑賞は無理か、と思いつつもふぁっきん仕事をやっつけて、さいたままで最短距離を最速で駆け抜けてやりました。で、その間にケイタイをいじくり倒した結果、奇跡的にmixiでチケットを譲って下さるという女神様にも出逢う事ができ、開演5分前にスーツ姿で着席という離れ業をやってのけました。執念や、林檎への執念が勝ったんや。そんなことを思ったり思わなかったりしてる間に開演。


01.ハツコイ娼婦


僕は後方スタンドの最前列という、丁度舞台全体が見渡せるベストポジションで観させていただきましたが、さすがに見渡す限りの人人人。MCで椎名さんも仰ってましたが「こんな広い会場とこんな人数で演るのは初めて」っていうくらいの人。バンド+オーケストラという編成で、メンバーも豪華布陣。準備万端整ったところで、いよいよ真打登場。


鹿。


登場した椎名さんは、鹿でした。頭にキュートな角を生やされていらっしゃいました。椎名林檎を封印していた間に生えちゃったんですかね。そんな感じの衣装でしたけども、それにしたってやべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 林檎さんきたきたきた、林檎だよ林檎、「東京事変の」じゃなくて、「椎名林檎」だよねぇねぇねぇ!!! お前らもっと騒げや、ノレや、叫び出せや踊りだせや!!!! っていう内心の興奮とは裏腹に、やはり圧倒的な存在感と厳粛な空気感を即座に形成し、何も声を発さずとも黄色い声援を封じ込めるあたりはさすが。


02.シドと白昼夢


アレンジは当然オーケストラVer。東京事変が現在進行形なわけですから、無罪の頃のようにはできませんよねやっぱり。斎藤ネコ先生との相性の良さは実証済みなわけで、ビッグバンド編成のジャズ風味のこの曲はもう鉄板に決まりきっています。登場時の客席と演者の緊張感が少し緩む。


03.ここでキスして


全ての言葉を無力化するイントロの息遣い。ライトアップされた林檎さんの手には当然ギターが。もうそれだけでいいんだよ。ギターをかき鳴らして歌ってる椎名林檎がまた観られただけで、もう今日はお腹一杯。呼吸というのは人間にとって生きるということと同義なわけで、そんな息遣いを「聴かせる」ことから始まるこの曲は、まさに当時の椎名林檎のコンセプトを象徴していたように思うのです。彼女が自らの生を削り取っていく、その様に人間としての壮絶な強さを感じていたのです。


04.本能


その頃から考えると、この「曲順」で演る本能って感慨深いし、なんだか不思議な感覚がある。こーゆーヒットメドレーみたいなのやんなかったもんなー。改めて聞くと、やっぱキャッチーだし、そら売れるわなっていうさ。だってあんな綺麗な人が看護婦の格好してガラス蹴破ってたら誰だってKOされるよ。それはもう人間に刷り込まれた本能の部分から揺さぶられちゃうっていう。そういえば、割とこの曲はアレンジも原曲に近かったような感じがしたけど、どうだろう。


05.ギャンブル


はい出たこれ。今回はネコさんとのマイルドVerの方だったけど、それでもインパクト絶大。虐待グリコゲンの方だったらもうこの時点で失禁からの失神パターンですきっと。「帰る場所など何処に在りましょう。動じ過ぎた。もう疲れた。愛すべき人は何処に居ましょう。都合の艮い答えは知っているけど。」 あんまりにも脳を直撃してくるフレーズと終盤の林檎の叫びが相まって、曲が終って握りしめていた拳をふと開いてみれば、うっすらと汗が滲んでおりました。


06.ギブス


この辺まで来ると、僕の中であまりにも「ベタ」というか血肉の一部となっているというか、聴いて聴いて聴き倒してて、飽きたとかそういう次元を超えてって、もうスタンダードの域なんです。だから今さら歌詞がどうとかメロディがどうとか、そーゆーんじゃないんだよね。残りの人生の中で、椎名林檎が生でこの曲を歌っている現場にあと何回立ち会えるかっていう、そういうレベルの話になっちゃってる訳です。気持ち悪いでしょ、いや自分で書いててキモいもんモイキーだもん。でももう好きになっちゃったんだからしょうがないじゃない。i 罠 B wiΘ U。


07.闇に降る雨


うわぁぁぁぁぁっっっ!!!! え、いいんすか? こんな贅沢させていただいていんですか????? いや、あの、もっとお金とかだったら払えますけど、いやマジで。まさかこんな風に勝訴を追体験できるとは思ってなかったから、本当に若干だけど、「うわっ」ってリアルに声でちゃったもん。やっぱり勝訴の曲は「体が硬直する」っていう感覚があるんですね。別にノレないとかじゃなくて、体の芯に響くっていうか、内側から汗が噴出してくるっていうか。


08.すべりだい


で、ここでこういう曲を持ってこれる彼女のバランス感覚が素晴らしいし、愛せるわ。椎名林檎のPOP職人としての才能を再確認。一定の枠組みだったり自分なりのルールを設定して、敢えて自己を縛り付けた方がより才能が燃え上がる的なとこあるよね。


09.浴室


すべりだいの最後で舞台が回転したかと思いきや、何故かそこには見慣れない「台」がぽつんと。楽器ではなさそうだし。と、おもむろに林檎嬢がその前に仁王立ち。何が始まるのかと思いきや、包丁を持ち出し、サビにあわせて林檎をむきだす椎名さん。爆笑。まぁ、剥くっていうよりは切り刻むって感じだったけど、いや、その発想はなかった。林檎を僕らに「すぐきちんと召し上がれ」と差し出す彼女。余裕だね。


10.錯乱


またもや余裕の椎名さん。上から目線で俺らにどんどん曲を浴びせかけてくれ。ここまでMC特になし。完全にショーというか舞台を見ている感覚。


11.罪と罰


最近、といってもかなり昔からだけど、椎名さんは声や歌い方がかなり変化している。どっちが好きとか良いってわけじゃない。キラーチューンみたいな曲で罪罰みたいな情念篭った歌唱を見せるのは違うだろうし、その逆もまたしかり。表現の幅が広がったというか、きっとそんな感じで。ギブスが「好き」な曲だとしたら、罪と罰はもう「愛してる」領域。この曲と共に在る感覚なの個人的には。っていうか、ここまで個人的な話しかしてないんだけどさ。今回の歌唱は、まさに新旧の椎名林檎が入り混じっていたように思います。体を捩じらせて声を絞り出す彼女も、余裕の表情で観客を見渡す彼女も、たち現れては消えていくような、そんな。


12.歌舞伎町の女王


うはぁぁ、息つけねぇなぁ。こんだけ聴きたかった曲連発されてもまだまだ聴きたい曲残ってるもんな。っつぅか、この時点でまだセットリストの半分しかいってないっていうね。凄すぎる、椎名林檎の10年間濃密過ぎる。


13.ブラックアウト


良いね。さらっと東京事変の曲を演る軽やかさがいい。もちろん「椎名林檎の」曲なんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだけどさ。こんな感じで事変でも林檎の曲とか演ってくんねぇかなぁ。こんな感じで、ふっと、ね?


ここで、「林檎の芯」と題して、椎名林檎幼少期のエピソードがナレーションと写真にて語られました。そして、そのナレーターこそ、誰であろう、林檎さんのご子息だったのです。いやもうね、あの椎名林檎がですよ。こういうことやれるようになったんだよなぁ。大人になるってこういうことなんだろうなぁ。


14.茎(STEM)


茎ダンサーズ登場。いや、命名は俺ですけども。動きキレてたなぁ。


15.この世の限り


椎名純平氏登場。いやそれにしたってこれ良い曲だよね。子供を産み育てて「家族」ができて、東京事変っていう帰るべき「家」ができて、こんなにも暖かい雰囲気でもって楽曲を楽しんでる椎名林檎がいるんだよね。それはもう、それでいいんだよねきっと。こんなにポジティブな「ツナガリ」だとか「絆」みたいなものを椎名林檎が発しているというこの事実。いやだってね、下克上のDVDとか見返すとやっぱ全然違うもの。確かに過去の林檎はRockの神様に愛されていたように思うけど、でも、今の林檎が、やっぱり好きなんだよなぁ。だって、生きていくことだとか、成長することっていうのは、多分「こういうこと」だから。


16.玉葱のハッピーソング


MC聴いてたら、これを目指してこの世の限りを作ったのかななんて思ったんですけども。それにしても、お互いがお互いをリスペクトしてる感満載でいい兄妹愛をごちそうさまです。それにしたって林檎さんに「お兄ちゃん」とか言われたら心臓が止まる。っていうか、止まっていいから言われたい。それに輪をかけて「お兄ちゃんの声が好き」とかなんとか言われたら、もう。きっと止まる。けれども死に顔は笑顔だと思う。きっと。


17.夢のあと


ただ同じ時に遭えた幸運を繋ぎたいだけ

この結び目で世界を護るのさ

未来を造るのさ


ただただ、椎名林檎という人と同時代に生まれた幸運を感謝するのみです。貴女が居てくれて好かった。クソッタレな世の中でくそったれな日常を過ごす僕だけれど、何もかもを見失ってしまって行き場がない僕だけど、それでも音楽には、貴女にはラブ&ピースを歌っていて欲しい。そんなの貴女の柄じゃないんだろうから、そうやって苦笑いを浮かべているのだろうから、だったらそのままずっと歌っていてください。歌いたい歌を好きなように。そうじゃなかったら在ってください。そこにずっと在っていてくれれば他に何も望みません。それだけでいいんです本当に。


18.積み木遊び


なんだかんだでこれ演ってるときが一番「椎名林檎」って感覚があるのは何でなのかなぁ。自作自演屋ってニュアンスがしっくりくるからかしら、なんて。いつになくアイドルちっくなテンションでしたよね。


19.御祭騒ぎ


そのままの勢いで怒涛の御祭り騒ぎへ。場内のボルテージも急上昇。謎の阿波踊り隊も大挙して舞台上になだれ込み、もう何が何だかわからないけど、とりあえず物凄いことに。「なんかバブリーですよね」とは本人談。その通りだと思います、林檎さん。


20.カリソメ乙女


えっっっ!!!! もう本編終わり!!!!!! いやいやいや、まだまだこっちは2時間でも3時間でも行けるぜ、と時計を見るともう1時間40分も経ってたっていうね。あまりに濃密だったから時間とかそういうのわかんなくなってたわマジで。ラスト、倒れこむように舞台から消えてった林檎嬢YOSHIKIか、と一応ツッコンでおきます。


21.正しい街


何もいうことはありません。イントロ鳴った瞬間に拳から全身に力が入って、涙が滲んでました。聴いてて、腹の底に力が入る楽曲なんてそうないよ。だってあまりにも美しすぎる。


思えば。椎名林檎さんと出逢ったのは、僕がまだ福岡に住んでいた頃でした。歌舞伎町の女王辺りでなんとなく良いなぁと思ってて、ここキスで俄然熱が上がったところに出たのが「無罪モラトリアム」。CDを安っすいラジカセに入れて、再生ボタンを押した瞬間、この曲のドラムが鳴り響いてきたのです。その衝撃は今でも忘れられません。それから、それからずっと、貴女のことをお慕い申し上げておりました。それはきっとこれからも変わりないと思うのです。どうぞ、お体にお気をつけて。ご自愛ください。


22.幸福論(悦楽編)


最後の最期でトレードマークのメガホン登場。結局の所、僕たちはあなたの其の歌声やメロディに触れているということが幸福なんです。きっと、会場に居た全員がそのように感じていました。そんな雰囲気に包まれていました。だから


時の流れと空の色に

何も望みはしない様に

素顔で泣いて笑う君のそのままを愛してる故に

あたしは君のメロディやその

哲学や言葉 全てを守り通します

君が其処に生きてるという真実だけで幸福なのです


23.みかんのかわ

24.余興


大団円。ハッピーエンドという言葉がよく似合う幕引き。林檎さんが舞台袖にはけていく時、いつものクロールを見せてて、そこで何故だかふっと笑顔になって、それで現実に戻っていきました。


会場を出ると、外はもう暗く、風が冷たく吹き抜けておりました。けれども、不思議と喪失感はありません。きっと、また逢えますよね? 其の時は是非お目にかかりたいと思っています。また何処かで。それまでは何とか生きてきます。そんなこんなで、とにもかくにも椎名林檎さんに感謝。チケット譲ってくれた方にも感謝。さいたまスーパーありがとう、というダジャレでもって感謝の言葉に換えさせていただきたく存じ上げます。